2007.01.18(木)
国際刑事裁判所(ICC)についてインタビュー(公明新聞掲載)
解説ワイド/「法の支配」確立で紛争抑止をめざす/国際刑事裁判所の可能性/日本も加盟へ。広がる平和貢献
 政府は、集団殺害や戦争犯罪などを犯した個人の刑事責任を追及し処罰する国際刑事裁判所(ICC=International Criminal Court)への加盟に向け、来年度予算案に分担金支出として約7億円を計上したほか、まもなく召集される通常国会に国内法整備のための法案を提出する。公明党は、非人道的犯罪は必ず処罰されるという「法の支配」を確立することによって犯罪防止を目指すICCを強く支持、日本の早期加盟を訴えてきた。ICC加盟の意義とICCの可能性について、党ICC設立条約早期批准推進小委員会の荒木清寛座長と遠山清彦事務局長(ともに参院議員)、さらに浜田昌良外務大臣政務官(公明党参院議員)に聞いた。

『目的は?』
 国際刑事裁判所の目的についてICC設立条約(ICC規程)の前文には、国際社会全体が懸念する最も重大な犯罪について、「犯罪の実行犯を不処罰のままに放置しておく状態を終了させ、このような犯罪の予防に寄与する」と書かれている。
「最も重大な犯罪」としてICCが裁判できる犯罪は、(1)ジェノサイド(集団殺
害)の罪(2)人道に対する罪(3)戦争犯罪(4)侵略の罪――であり、これらは
現実に武力紛争のたびに発生している。ただし、(4)については侵略の定義が国連
でまとまらず現在は適用不能だが、ICCの存在が(1)〜(3)までの犯罪の予防
に役立てば、武力紛争の抑止にもつながる。
 旧ユーゴ国際刑事裁判所の判事であった多谷千香子法政大学教授は、自著の中で「権力の野望に取り付かれた戦犯の末路が、獄につながれることであり、積極的に戦争犯罪を命令・実行しなくても、期待される行為をとらず責任を放棄した者もまた戦犯として処罰されることが明らかになれば、人は戦犯裁判の経験に学んで、同じような犯罪を繰り返すことを差し控え、将来の戦争犯罪を防止できるのではないだろうか」(『戦争犯罪と法』 2006年 岩波書店)と述べ、国際刑事裁判の可能性に期待している。
 
『仕組みは?』
 ICCが捜査し裁く権限(管轄権)が及ぶ範囲は限られている。
 まず、対象犯罪を先に紹介した集団殺害や戦争犯罪に限定し、ICC規程発効(2002年7月1日)以前の犯罪は追及しない。
 一方、地理的制限はないものの、犯罪の実行地国(犯罪が行われた国)がICC加盟国か否か、また、被疑者(犯罪の嫌疑をかけられ捜査対象になっている人)の国籍国が加盟国か否かでICCの管轄権が及ぶかどうかが変わってくる。
【実行地国が加盟国の場合】 
被疑者の国籍国がたとえ加盟国でなくても管轄権がある。
【実行地国が非加盟国の場合】 
被疑者の国籍国が加盟国であればICCに管轄権があるが、非加盟国の場合には(1)実行地国または被疑者国籍国がICC管轄を認めれば管轄権がある(2)実行地国、被疑者国籍国ともにICC管轄を認めなければ管轄権は及ばない――ことになる。

 管轄権が複雑なのは、ICCが国家主権を尊重し、「補完性の原則」を採用したからだ。そのため、被疑者の捜査、訴追は加盟国が行うことが基本とされ、加盟国が国家破たん状態であったり、訴追の意思がない場合にICCが直接動き出すことになる。
 加盟国は、非人道的行為に対し、ICCに捜査を求める形で道義的に紛争に介入できる。これは武力介入ができない日本にとって重要な平和貢献になり得る。
 
『公明党の取り組み』
『「早期加盟は人道大国の責任」と主張』

 公明党が新生・公明党として結成大会を開く4カ月前の1998年7月、ICC設立条約(ICC規程)がローマで採択された。公明党は直ちに結成大会で採択する基本政策大綱に「国際刑事裁判所の創設推進」を掲げ、ICC支援と日本の早期加盟を目指し国会での活動を開始した。
 ICC規程発効(2002年7月)前、神崎武法代表(当時)は02年2月の衆院本会議における代表質問で、ICC早期加盟は「『人道大国』としてわが国が目指すべき方向」と主張。同5月には公明党外交安全保障部会(当時)にICC設立条約早期批准推進小委員会(荒木清寛座長、遠山清彦事務局長=ともに参院議員)を設置し、さらにマニフェスト(政策綱領)にもICC早期加盟を掲げた。
 05年12月には荒木座長らが来日したICCのカターラ書記局長と意見交換、06年2月には遠山事務局長が外務大臣政務官としてICCを訪問、キルシュ所長に訪日を要請(同年12月に実現)した。
 また、06年5月には自民党のICC議員連盟と合同勉強会を開催し、6月には与党として財務省など5省庁に早期加盟の提言書を提出。さらに10月の参院予算委員会で公明党の魚住裕一郎氏が安倍晋三首相に早期加盟を迫ったことを受け、首相が「07年中にICC規程を締約できるように進める」と政府として正式に加盟する方針を表明した。

『国際法廷の歴史』    
 武力紛争で発生した非人道的行為を犯罪として国際法廷で裁くという考え方は、第1次世界大戦後に生まれたが、実現したのは第2次世界大戦後のニュルンベルク裁判と東京裁判だった。しかし、裁判官が戦勝国から選出され、戦勝国による犯罪行為は裁かれなかったため、「勝者の裁判」とも指摘された。また、人道に対する罪、平和に対する罪は国際法上確立されていない犯罪であり、この罪で人を裁くことは「事後法の禁止」(実行の時に犯罪でなかった行為を、その後に定められた法律で刑事責任を問うことはできないとの法原則)に反するとの指摘もあった。しかし、人道に対する罪は後に国際法の一般原則になり、両裁判は個人の刑事責任追及のための法理の発展に貢献したとされる。
 その後、国際社会は、地域や期間限定ではなく常設の国際刑事裁判所の設立に向け議論を進めたが、冷戦の深刻化でとん挫。冷戦終結後の1992年に国連総会が検討再開を決議し、98年にICC規程が採択された。
 またICCとは別に、旧ユーゴとルワンダで起きた虐殺事件に対し、93年に旧ユーゴ国際刑事裁判所が、94年にルワンダ国際刑事裁判所が設置され現在も活動している。

【ICCの概要】
◎2002年7月にICC規程が発効。03年3月に正式発足。設置場所はオランダのハーグ。現在、加盟国は104カ国。ウガンダ、コンゴ、スーダンで捜査などに活動中。
◎裁判官は18人で任期9年、3年ごとに6人ずつ改選。
◎対象犯罪は(1)ジェノサイド(集団殺害)の罪(2)人道に対する罪(3)戦争犯罪(4)侵略の罪(定義で合意できず将来の課題に)。
◎予審部が捜査令状などを発布、公判部で起訴された事件を審理し判決を下す。上訴部が上訴を担当する二審制。
◎刑罰は無期または30年以下の拘禁刑。合わせて罰金刑も可能。死刑は認められない。
◎犯罪者の訴追は加盟国が行うのが原則。
◎ICCへの付託は(1)加盟国(2)国連安保理(3)ICC検察官の独自捜査―のいずれかで行われる。

『荒木清寛・党ICC小委座長/重大犯罪の処罰は平和構築に欠かせない』
 「暴力の連鎖」によって地域紛争が泥沼化するほどの悲劇はない。ICCが目指すのは「法による解決」によって「暴力の連鎖」を断ち切ることにある。
 国連によると1990年代に紛争から抜け出した国の約半数が5年以内に再び暴力の世界に戻っているという。現在、国連はこうした悲劇を避けるため、紛争後から国家再興までを継続して支援する平和構築活動に力を入れ始めているが、平和構築には紛争当事者同士の和解が欠かせない。そのためには非人道的な罪を犯した首謀者や実行者を明確に処罰する必要がある。処罰をあいまいにし、何が正義かをあいまいにしたままで戦後復興や平和はあり得ないからだ。
 21世紀の日本は人道国家であるべきだと考える。条約加盟でICCが本来の役割を果たせるように協力を進めたい。

『遠山清彦・党ICC小委事務局長/テロ処罰は国連の論議を先行させるべき』
 武力紛争で悪逆非道な行為を行ったり命じたりした者も、国家の名の下に行
われた行為であれば処罰されなかった。
 これに対しICC創設に努力してきた関係者は「不処罰の文化をなくそう」をスローガンにしてきた。日本もICC加盟によってこの「不処罰の文化」をなくす作業に主体的に参加できる。例えば、ICCに日本から司法の専門家を判事や検察官として輩出できれば、国際犯罪処罰に関するルール・メーキング(規範定立)という重要な役割を担える。
 未解決の問題としては現在の難問であるテロリズムの問題がある。現在のICCはテロの処罰はできないが、これはICCだけの問題ではない。国連で続いている包括的テロ防止条約の議論をまずしっかりと詰め、その後、ICCの役割を探るという順序で考えるべきだ。

『浜田昌良外務大臣政務官に聞く』
『日本加盟の意義/アジアの価値観を代表し裁判に貢献』

 ――日本のICC加盟の意義は?
 浜田昌良外務大臣政務官 日本はICC設立論議のときから一貫して支持してきた。日本加盟の意義は3点にまとめられる。
 1点目は、日本の平和人道大国としての意思を明確にできる。重大犯罪の不処罰は許さない、「力の支配」でなく「法の支配」を支持する姿勢を世界に示すことができる。2点目は、アジア・オセアニア地域での「法の支配」確立に貢献できる。
現在、この地域の53カ国のうち加盟国はわずか12カ国。ICC加盟国が104カ国に達し、国連加盟192カ国の半分を超えている現状からすると日本の果たす役割は大きい。3点目は、大国である米国、中国、ロシア、インドは未加盟だが、日本加盟によって大国もICCを認めていく突破口が開かれる。

―加盟に必要な国内措置は?
 浜田 法整備とICCを支える分担金の拠出がある。まず、分担金は来年度予算案に計上(四半期分の約7億円)した。次に国内法の整備としては、ICCのような国家ではない国際機関に対し犯罪人引き渡しや証拠提供ができる制度をつくる必要がある。また、偽証や証拠隠滅などでICCの活動を妨害することを犯罪にするための法律も必要であり、法案を通常国会に提出する予定だ。

―日本が貢献できる分野は?
 浜田 まず、アジアの価値観を代表できる。国際裁判はさまざまな価値観を踏まえて審理されるべきで、その分野で日本も貴重な貢献ができるはずだ。次に、日本の分担金は全体の約20%(年間約30億円)でトップとなり、発展途上国などの拠出金負担を軽減し得る。最後に、日本の法律家を裁判官や検察官として送る努力をしていきたい。
 ICCが機能し国際社会が安定すれば、国際的相互依存の中にある日本も結果として大きな利益を受けられる。しっかりと貢献したい。